ここ数年でパソコン用主記憶装置などとして急速に普及が進んでいるSSDには、半導体不揮発性メモリの代表格であるフラッシュメモリが使用されています。従来のHDDに比べて多くの特徴を有しており、SSDはHDDを駆逐する勢いです。ただし、15V以上の高い書き込み電圧やμsオーダーの遅い動作速度を大きく改善するには、フラッシュメモリの動作原理に起因する限界があります。
そこで、究極の小型・高速の不揮発性メモリとして、抵抗変化型メモリ(ReRAM)が注目されています。抵抗変化とは、酸化物を特定の金属で挟みこんだだけの構造に電圧を印加するだけで抵抗状態の「高・低」を繰り返す現象で、動作電圧3V以下とnsオーダーの動作速度が可能となります。この「高抵抗状態」と「低抵抗状態」を「0」と「1」にアサインすれば、この情報は不揮発で、かつ書き込みや読み出しが容易なメモリとして使えます。しかし、抵抗変化が発現する金属と酸化物の組み合わせや抵抗変化特性が実に多岐に亘っており、抵抗変化のメカニズムにはいまだ謎が多い状況にあります。
本研究室では主に、遷移金属酸化物である酸化ニッケル(NiO)・酸化チタン(TiO2)・酸化タンタル(Ta2O5)・Pr1-xCaxMnO(PCMO)を金属電極で挟み込んだ積層構造素子を作製しています。素子の作製条件を制御することにより、作製直後の素子への電圧印加過程において、抵抗変化の真髄の一端が垣間見える興味深い現象が発現することがわかってきました。一例として、あるPt/NiO/Pt積層構造における、半導体の量子効果の発現について少し触れます。作製したばかりの素子に電圧を印加していくと、通常の素子のように急激に低抵抗化するわけではなく、途中で量子化コンダクタンスに基づく離散的なコンダクタンス変動を経た上で最終的に低抵抗の状態へと至ることが分かりました。通常の素子における低抵抗化は、抵抗変化層である酸化物中に導電性のフィラメントが形成されることに起因すると考えられることからフォーミングと呼ばれており、このフォーミングが抵抗変化の発現には重要な役割を果たします。つまり、上記のコンダクタンス変動は、狭窄部が量子ポイントコンタクトとなっている導電性フィラメントが形成されていることを示唆しています。
抵抗変化型メモリの研究は今世紀に入ってから産声を上げたばかりでもあり、多様な学術的背景を有する研究者が集まっている分野横断の要素に溢れています。この抵抗変化現象も、不揮発性メモリへの応用に限られるものでもありません。抵抗変化のメカニズム解明への多角的なアプローチを通じて、常識にとらわれず想定外の発見を楽しむ研究テーマになっています。
以下に本研究室で取り組んでいる主なテーマを記します。
- NiO・TiO2・Ta2O5抵抗変化素子におけるフォーミングおよび抵抗変化特性の解析
- 抵抗変化素子における量子ポイントコンタクトの形成条件の解明
- PCMO抵抗変化素子における抵抗変化特性と界面状態との相関の解析
- アナログ抵抗変化特性の発現メカニズム解明
- 電極材料が抵抗変化現象に及ぼす影響の調査
(発表論文の例)
Y. Nishi et al., “Conductance fluctuation in NiO-based resistive switching memory,” J. Appl. Phys., vol. 124, 152134 (2018), Special Topic.
M. Arahata et al., “Effects of TiO2 crystallinity and oxygen composition on forming characteristics in Pt/TiO2/Pt resistive switching cells, AIP Advances, vol.8, 125010 (2018).
T. Miyatani et al., “Dominant conduction mechanism in TaOx-based resistive switching devices,” Jpn. J. Appl. Phys., vol. 58, 090914 (2019).
N. Kanegami et al., “Unique resistive switching phenomena exhibiting both filament-type and interface-type switching in Ti/Pr0.7Ca0.3MnO3-δ/Pt ReRAM cells,” Appl. Phys. Lett., vol. 116, 013501 (2020).